本 の 紹 介

よこまち余話

木内 昇 著  中央公論新社 1,620円

 少し前までこの作家について知らなかったのですが、本屋さんで香月泰男の絵が表紙に使用されていた「ある男」と言う本を見て関心を持った作家でした。市井に埋もれた人々を題材にとった地味な内容の小説が多く、私たちが日ごろ味わうさまざまな思い悩み等をコツコツと綴っていくため痛快と言う訳には行きませんが、しんみりと胸に染み入ってきます。この本は17編の短編から構成されています。奥まった一角にある横町に住む何かしらこの世に思いを残しているらしいお針子の齣江と皮肉屋の老婆トメさんとこちらの世界の住人である魚屋の末っ子の浩三を中心に現か幻か分からない時空を超えたしんみりした静かな世界が広がっていきます。そうした中で、現の人達への生き方への反省を促す場面もあり、職人気質な生き方の中に人情を見たり、わたしたちの心の中にある何かわからないわだかまりや達せられない思いが語られています。死を迎えるとき前日に天使の姿を見ると言った話も聞く事があります。この世とあの世の境目が入り混じった空間がまた私たち心の中にもそうしたところがあるのでしょう。著者が対談の中で、「旅行であちこち歩きまわるのが好きなんですが、たまに「ここは時空が歪んでいるな」と感じる場所があります。といっても霊感的な話ではないんですが、昔のまま時が止まっているように感じる場所があるんですよね。子どもの頃を思い返してみると、「そういえばあの人って誰だったんだろう」という人が必ずいませんか?」と語っています。そうした世界が私たちの日常生活の中にあざなわれたお話です