本の紹介

1.喪の途上にて 〜 大事故遺族の悲哀の研究 野田正彰著 岩波書店  3360円
                       

 JR西日本・福知山線の脱線事故は107名の方が亡くなられる大きな事故となりました。こうした大事故で災害の責任とか悲惨さは十分すぎるほど報道されています。しかし残された方々にとってはこれから先、遺族は予期しない突然の出来事に対する心の整理を長い年月にわたって行い日常の生活に戻るための作業をしていくことになります。
 この本は1985年8月12日の日本航空123便の御巣鷹山墜落事故(524名搭乗で520名死亡)の遺族のPTSDの治療に関係してきた精神科医の記録で、こうした日常生活への立ち直りの過程を「喪の途上」と呼んでいます。立ち直りが早いか遅いかの違いを次のように述べています。「一般的には、十分な介護をした上で家族と死別した場合、遺族の自責感は少なく、精神的安定も比較的容易である。反対に突然の死別は、それだけ激しく、― 私は何をしてあげただろうか― と遺族を責めたてる。日航機一二三便のように、遺体が飛び散った場合はなおさらである。「私は本当にあなたを我が家に帰したのだろうか、私の手に取り戻したのだろうか」と自問し、自責するのである。前章のKさんは、夫の部分遺体を発見しようと全力をつくすことによって、曾ての彼女自身を越えた人である。そこでは夫の部分遺体の発見―つまり夫を事故から奪い返す闘いは、死の棘を消毒する作業にもなっている。」また、現代社会での事故と死の悲哀の変化について、「大事故は現代文明が作った。不幸に遭遇した人々の悲哀も、現代社会は文明的に、すなわち技術的に、産業的に処理して止まない。そこでは死別の悲しみは共感され、共に悲しむものではなく、ひとり耐えることが要求され、スケジュ−ルや補償金によって置き換えられている。」と指摘しています。
 この本は、大きな災害に突然遭遇した遺族の精神的な様相について、またそこからの立ち直りの諸相について報告しています。