本 の 紹 介

境界の民

難民、棄民、抵抗者。国と国の境界線に立つ人々
安田峰俊 著  角川書店  1,700円


 尖閣列島や竹島問題で領土の問題が多少意識されたとしても直接他国と接している訳でもない島国では国境という言葉はピンとこないのではないでしょうか。私自身国境と言うことを感じたのは北海道の羅臼にひかり苔を見に行った時で、向こうに見える島とこことの中間に国境がありそれを超えるとロシアに拿捕されると聞き、何かわからない怖さを感じたことがあります。この本は地理的な国境を問題にしたものではなく、目に見えない国境である国籍の問題、無国籍と言った状況で生きると言うことがどのようなものかその一端を報告しています。
 「第1章 クラスメイトは難民―日本の中のベトナム」、「第2章 偽りのシルクロード(上)−迷走するウィグル」、「第3章 偽りのシルクロード(下)−道具としてのウィグル」、「第4章 ガラパゴスのコスモポリタン−引き裂かれる上海」、「第5章黒いワイルド・スワン−軍閥。文革、歌舞伎町」、「第6章 甘すぎる毒の島−幻想としての台湾」の六つの章で主人公を通して様々な問題を紹介しています。「はじめに」の中に次のような文があります。「「ある日、浜辺で物売りのおばさんに声をかけられたんです。で、相手の話す言葉がちゃんと分かった。『やったあ、私はこの国に受け入れられたよ!』と嬉しかったんですよ。そうしたら、母がそこに来て『この子はベトナム人じゃないよ』と言いだした。もちろん母に悪気はなくて、私が物売りのおばさんに絡まれているから追い払おうとしてだけなんですが―」/だが、感情が爆発した。日本だけではなくベトナムの社会からも「あなたは自分たちのメンバーではない」と言われたに等しかったからだ。両親はたとえ難民になってもベトナム人だが、自分自身はベトナム人でも日本人でもない。初めてその事実に気付いた瞬間だった。」」 
 身近なところには、子供の認知裁判で親子を呼び寄せて金儲けをする問題や長期不法滞在者に対する在留資格の問題など簡単に人権問題では済ませられない複雑な思いを持たざるを得ない問題もあります。この本はそうしたことを考えるうえで、また外国人との共生を考えるうえで参考になると思います。