本 の 紹 介

異 邦 人(いりびと)

原田マハ 著  PHP研究所  1,700円


 絵画ややきものや刀などの美術品や造り手を題材とした本が目につくと感心を持ってしまいます。先日も刀にまつわる話が入っている浅田次郎の沙高楼綺譚や平岩弓枝の鏨師を読みました。いずれも刀の鑑定に係る偽物づくりと鑑定家との目に見えない戦い扱ったもので面白くはあっても美術品に纏わる真贋論争、偽物づくりと言う側面から見ると何とも言えない気持ちにもなります。自分で集めた古いものもどこまで正しいのか、時代が無いのかと言うことを考えると面白くもあり、うんざりするところもあります。しかし買うかどうか判断するのは自分自身であるため自分の鑑識眼を信じるしかありません。美術品は販売のため様々な美辞麗句で説明されていてもそれを自分なりにどう判断し、どのように決断するかの繰り返しでそれなりにものの見方が培われてくるとはいっても大したことはありません。もって生まれた感性だけはどうしようもないと諦めざるを得ません。
 この本は私設美術館の副館長である主人公の若い女性が生まれつき持った審美眼が中心に据えられています。ふと立ち寄った画廊で見た一枚の絵に魅入られ手に入れます。未だ作品を発表したことも無い無名の若い女性の作品です。これの置いてあった画廊の主人も東京の老舗画廊の専務である自分の主人も良い絵とは認めても積極的に取り上げようとはしない中、この画家のずば抜けた力量を一瞬にして見抜き、世に出そうと思い定め、動きだすことから様々な波紋を巻き起こしていきます。この絵の作者を世に出すプランは順調に進みますが、同時に自分自身をめぐり、また絵の作者をめぐる秘密が現れてくると同時にそれぞれの生活基盤は崩れ去っていきます。自分の勤めていた美術館の中心にあり、思い入れの深かったモネの睡蓮が自分の知らない間に売却処分され、それが形を変えて彼女のもとに顕れてきます。類まれな才能を持った画家と同じような審美眼を持った二人の女性が新しい世界を切り開いていきます。異邦人とは京都と言う長い歴史を持った街に普通では受けいれられることの無い二人を、また俗人を超越した美的感覚の持ち主としての二人は世に受け入れられ難いと言った意味でしょうか。一気に読まされたミステリー小説でした。