本 の 紹 介

猟師の肉は腐らない

小泉武夫 著 新潮社  1,400円


 食に関するエッセーなどを探していると小泉先生の本はいたるところで目にすることが出来ますし、著書の中で、「味覚人飛行物体」、「走る酒壷」、「鋼鉄の胃袋」、「発酵仮面」等々のあだ名を披露されているように世界中いたるところの食について、その扱う範囲もゲテモノ食いから本職の発酵学や醸造学の薀蓄を基にしたエッセーは抱腹絶倒の面白さを持ちついつい一気読みしてしまいます。今回の本は、これまで調査されてこられたマタギや山里の生活を基にした物語風のエッセーといった形式で、福島県八溝山地でターザン生活を送っている義っしゃんと過ごした日々の経験が書かれています。
 書名の腐らない肉とは燻製を意味していて、魚、野鳥、蛇や蛙は串刺しにして囲炉裏の自在鉤の上部の藁束に刺しておけば何時の間にか燻製が完成し、イノシシの肉も塩をまぶして囲炉裏の上に3カ月程度吊るしておけば後は物置に吊しておいても腐ることもないとのこと。燻製の話はこの程度で、八溝山地での狩猟採集生活のいろいろ、ヤマメ、蜂、マムシ、ドジョウ等々の食材に関する獲得法とか調理法が面白おかしく語られています。しかし読んでいて感じるのは自然への畏敬の念であり、自然から恵まれる食に対する感謝の気持ちといえます。そうした例として、義っしゃんはこれまでとってきた猪の全てに「八溝院徳猪壱参宙居士」とか「八溝院徳猪弐七星大姉」と番号を付けた戒名をつけており、また、岩魚釣りもルアーやフライを使わず生餌を使うこだわりも命を提供してくれる岩魚への感謝の気持ちといえます。
 この本を通じて猟犬クマも重要な主人公であり、最後の大猪との二度にわたる死闘は涙が出る思いがしました。面白かったものに、冬のドジョウとりは水を抜いた田んぼの排水口周辺から掘り出すと言ったことや、窮乏食として木の枝から作る紙餅などがありました。典座教訓同様自然の恵みである食のありがたさに感謝する気持ちに気づかせられた本でした