本 の 紹 介

シナ海域 蜃気楼王国の興亡 講談社  上田 信 著 2,205円


 シナ海域と言われてもどの地域を指しているのかピンとこないのではないでしょうか。ましてやそこに王国が興亡したといわれると雲をつかむような話かもしれません。地図上の範囲を大雑把にいうと、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、中国と台湾に囲まれた南シナ海と台湾以北の日本と韓国と中国に囲まれた東シナ海を合わせたものがこの本の舞台のシナ海域となります。やきもの好きにとってこの海域はやきものの流通を通じて結ばれていたことをよく知っています。宋胡録、安南染付、トンボ手茶碗、呉須赤絵、ルソンの壺また中国からまた我が国から陶磁器が東南アジア一帯にまたヨーロッパに運ばれていました。これに寄与したのが東インド会社やここに登場する人物たちでした。交易を円滑に行うためには秩序を維持する装置が必要となります。それが倭寇であったり東インド会社であったりします。それぞれの思いは別としても、この本はそうした一つの秩序づくりを目指した5人の人物を取り上げています。足利義満、鄭和、王直、小西行長そして鄭成功です。王直を除けば教科書で名前を知っている人物です。王直と鄭成功は中国人で五島や平戸に本拠地を置いた倭寇の頭目です。倭寇は明朝の海禁政策により活動拠点を平戸や五島に移していきます。そのため平戸市には王直の銅像や倭寇として活躍した中国人が造った六角井戸も残っていますし、鄭成功は平戸で生まれています。「16世紀なかば、海と陸との力関係は逆転する。海域王国は数百隻からなる船団を有するようになり、陸の干渉を振り払うようになる。歴史的に後期倭寇の頭目とされる王直は、五島と平戸を拠点として徽王と名乗り、一個の政権を打ち立てようとした。ここに蜃気楼王国がようやく、海の霧の中から歴史の中に姿を現す。」と著者は述べています。こうしたシナ海域での貿易秩序を確立を目指した王直は種子島に鉄砲をもたらしました。著者は蜃気楼王国の住人について、「一隻の船に乗り込む人々の顔貌や言葉などが異なっていることは、珍しくない。異民族雑居、これが海域王国の住人の常態であった。現代的な国籍を問うことは意味をなさない。しかし、あえて出身国で区分をするならば、日本人・中国人・朝鮮人・琉球人・ヴェトナム人・マレー人・タイ人・ポルトガル人といったことになろう。」と述べています今進行中のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)であり、多文化共生の実現された世界だったといえます。