本 の 紹 介


エンゼルフライト 国際霊柩送還士  佐々涼子著 集英社 1500円



 数年前の深夜、呉市でフィリピン人技能実習生が車に跳ねられて死亡する事故がありました。当然、教会に遺体が運ばれてくるものと皆が思っていたところ、すぐに大阪に送られエンバーミング(防腐処理)されて送り返されました。この事件から、フィリピンでは遠くから来る人のために防腐処理をして長期間遺体を安置するのが普通だと聞いてびっくりしました。お金があり丁寧な処理ができる人は1ヶ月ぐらいは安置しておくとのことでした。事故による死亡であれば身体自体がかなりな損傷を受けていることもあるはずです。しかし私たちはそうしたことに気づかず五体満足な死体しか想像していないのではないでしょうか。また、死亡地での処理が悪かった場合には腐敗した状態で帰ってくることもあります。日本と外国との間で遺体の搬送を担う人たちがどのような仕事を行っているのかをこの本はエアハース・インターナショナル(株)の活動を通じて報告しています。
 この本の冒頭から凄まじい光景が出てきます。「蓋をあけたとたんに、強烈な腐敗臭がたちのぼる。魚やネギが腐ったような臭に・・・そこには現地で交通事故にあった日本人男性が裸のまま横たわっていた。外国から戻ってくる遺体には、エンバーミング(防腐処理)を施してあるのが普通だ。亡くなった人の静脈に管を入れて防腐剤を注入することにより、遺体は生前と変わらぬ外見を保つ。しかし、男性の肌は酸化による変色が進み灰緑色になり、頭部の解剖痕はホチキスで何カ所か留めてあるだけで、縫合していない皮膚の切り口からは血液と防腐剤液が流れ出て幾筋にも肌にしみを作っていた。」(P7〜P8)こうした遺体を綺麗に処置し、死化粧を施して生前と変わらないような状態で届けるのがエアハース(株)の仕事です。「今震災を経験して、弔いというものが人間にとっては本質的に必要なのだと私たちは理屈を超えて気づきつつある。葬儀は悲嘆を入れるための「器」だ。自らの力では向かい合うことができない悲嘆に向き合わせてくれるための仕組みなのだ。」(P278)と著者は述べています。常日頃葬儀は必要ないと思い、周りで亡くなる人も大往生に近ければ喪失感も悲しみも感じないまま葬式は日常生活の中の一場面として過ごして来ましたが、命と喪の作業を改めて考えさせられました。